7話 桜咲く

ep-story

鍵を閉め、家を出る。

出勤だ。

今日は少しゆとりを持って家を出た。

暖かいが少し風が強い。

ビュー

強い風とともに、桃色が揺れ、舞う。

もう春のようだ。

ニュースや天気予報より、目の前のそれが雄弁に物語っている。

出会いと別れは表裏一体などとはよく言ったもので、日本では来たる4月に出会いと別れがやってくる。

桜はいつも別れを見送り、スタートを見届けられる。

(お前は幸せ者だなぁ)

桜を目の前に、心の中で呟く。

自分の周りでも出会いと別れは起きている。

仮に自分自身が今いる定位置から変わらなくても周りは必ず動く。

桜も人間も相対的だ。

自分がいて、見るあなたがいる。

周りが動けば、知らず知らずに自分も動いているのだ。

全ては相対的であり、天動説なのだと思う。

自分だけじゃ世界は回らない。

逆に、自分が世界を回す一要因にもなれるのだ。

顔を上げると桜が「肩の力抜きな」と話しかけてくれている(気がする)。

「そうだね。」

難しいことは考えず、頭を空にする。

今自分は桜を見て幸せだ。

桜は綺麗で可愛くもあり、元気をくれる。

じゃあ、桜は自分を見ているのだろうか。

桜は自分を見ていて幸せなのだろうか。

…自分も桜を元気にしてあげたい。

リュックを地面に置き、蛇口の方に向かう。

(元気をありがとうね。)

そんなことを思いながら手で少し水をため、根元にかける。

ちょっとしたお返しだ。

水が冷たいから、本当にちょっとだけだ。

(今度は水以上のお返しをあげたいな。)

そんなことをこっそりと思う。

きっと幸せも相対的だ。

そして、きっと伝播する。

またこの桜に会いに来よう。

元気で楽しんでいる自分の姿を見せに来よう。

そしたら君も喜んでくれるだろうか。

振り返ると本当に素敵な出会いがあった。

この繋がりを大事にしたい。

そして、またここから始まるのだろう。

…よし、行くか!

朝から立ち止まって考え過ぎた。

リュックを拾い、足を駅に向ける。

今日、現在の職場へ最後の出勤をする。

良い日になりそうだ、ありがとう、桜。

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